予告編
4月シアター・イメージフォーラムにて公開
台北、西門町に佇む中山堂。日本統治時代に建てられ、長い歳月の歴史を刻むその館内の薄闇に浮かび上がる、もう若くはない13人の顔、顔、顔…。ある者は黙って遠慮がちにレンズを見据え、ある者は身の上話を語り、ある者はハーモニカを吹き、そしてある者はカメラを前にしながらうたた寝を始める…。その市井の人々の顔の、皺一本一本が、まなざしが、口元のかすかな動きが、彼らが生きてきた人生を饒舌に語り始める。余分な情報を排したドキュメンタリーなのに豊饒なドラマを思わせる、特別な体験だ。
前作『郊遊 ピクニック』で商業映画からの引退を表明していたツァイ・ミンリャン監督が5年ぶりに放つ本作は、ヴェネチア国際映画祭でワールドプレミア上映されるや「彼の映画人生の新たな一歩を踏み出した」(ハリウッドリポーター誌)と言わしめた。 音楽には坂本龍一を起用。第二作『愛情萬歳』(’94) 以降、既成楽曲しか使ってこなかった監督、久々のオリジナル音楽。本作で坂本は、台湾金馬奨 音楽賞にノミネート、台北電影節では見事受賞を果たしている。出演者は監督作に欠かすことの出来ないリー・カンションを除き、全て監督が台北の街なかで見つけた一般の人々である。

撮影場所:
台北中山堂
( 旧 台北公会堂 )

建築家 井手薫の設計によって、日本統治時代の1936年に完成。戦後、日本が撤退する際の調印式が行われたことでも有名。現在は演劇他の公演が行われている。

監督 蔡明亮

1957年、マレーシア生まれ。ホウ・シャオシェンやエドワード・ヤンに続く、台湾ニューウェーブ第二世代の代表的監督。77年に台湾に移住し、台北にある中華文化大学で映画・演劇を専攻。92年、『青春神話』で映画監督デビュー。『愛情萬歳』(94)でヴェネチア国際映画祭金獅子賞を、『河』(97)でベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)を受賞し、世界的に注目を集める。
近年はアートインスタレーションにも進出。托鉢僧に扮したリー・カンションが、群衆の中を超スローモーションで歩く様子を撮影する“行者(Walker)”プロジェクトを2012年から開始。現在までに、7作の短編を仕上げている。
10作目の長編作『郊遊 <ピクニック>』(13)でヴェネチア国際映画祭審査員大賞を受賞。商業映画からの引退を表明するも、2018年に『あなたの顔』を製作。そして2020年には、11作目となる長編劇映画「日子」(英題:Days)を発表し、ベルリン国際映画祭コンペティション部門に選出された。

音楽  坂本龍一

1952年東京生まれ。1978年『千のナイフ』でソロデビュー。同年「Yellow Magic Orchestra」を結成。散開後も多方面で活躍。
『戦場のメリークリスマス』(83/大島渚監督)で英国アカデミー賞を、『ラストエンペラー』(87/ベルナルド・ベルトルッチ監督)では米アカデミー賞オリジナル音楽作曲賞、グラミー賞他を受賞。常に革新的なサウンドを追求する姿勢は世界的評価を得ている。
2014年7月、中咽頭癌の罹患を発表したが、1年に渡る治療と療養を経て2015年、山田洋次監督作品『母と暮せば』、アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督作品『レヴェナント:蘇えりし者』の音楽制作で復帰を果たした。2017年春には8年ぶりとなるソロアルバム「async」を発表し高い評価を得ている。

 3年前のある日、僕はヴェニスの浜辺をぶらぶら歩いていたのだが、遠くで「サカモトー」と呼ぶ声が聞こえた気がして、ふと振り返るとツァイさんが満面の笑顔でこちらに手を振っている。警戒心の微塵も感じられない、なんと親愛に溢れた表情なんだろうと、なかば呆気にとられる。その時、この人のためなら何でもしてやろうと思ったのだった。

 それから数ヶ月後にツァイさんのオフィスから連絡があり、新しい映画のために音楽を作ってくれと。ぼくはすぐにもちろんと返事をする。音楽の方向性はと聞くと、何もない、好きにやってくれという答え。

 送られてきた映像を見、早速いろいろな音を試してみる。いわゆる「音楽」は似合わない。音と間が必要だ。あのミニマルな映像に適切な音、間とはなにか。最初にピアノで試し、それを映像に合わせてみると、非常にせわしない。だめだ、忙しすぎる。音楽独自の時間が映像の邪魔をしてしまう。今度は映像を見ながら、音を出していく。そういうプロセスを繰り返しながら、納得のいく間をとっていく。この作業にはどんな理論も役に立たない。ひたすら感覚の命ずるところによって決めるのだ。

 数日して、音と間による12のピースができ、それを監督に送る、「自由にお使いください。切り刻んでも、全く使わなくても自由です」というメッセージを添えて。

 完成した『あなたの顔』を観て、特に嬉しかったのは、最後の室内のシーンのために作った音を、ツァイさんはやはりそのシーンに使っていたことだ。言葉を交わさず、映像と音だけで意思が通じたと確信できる出来事だった。このように幸福な映画音楽プロジェクトは人生で度々あるものではない。

坂本龍一
上映劇場
都道府県劇場名TEL公開日
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